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【実話】屋根の上で「音が消えた」塗装職人が経験した、熱中症。

こんにちは。有限会社美工舎塗装工業の菅原です。今日は、少し長くなりますが「命に関わった体験」を書かせてください。正直、これを書くのに少し時間がかかりました。恥ずかしさより、怖さの方が強かったからです。



■ 異変の始まりは“汗”だった

現場は築25年の木造二階建て。朝から気温は30℃を超え、屋根の上はたぶん体感45℃以上。鉄板屋根が赤く光って、靴底のゴムがやけに柔らかく感じるくらい。

10時すぎ、水を飲んでも口が乾く。汗がベタベタするどころか、気づけばTシャツが乾き始めてました。「変だな」と思った時にはもう、遅かったんだと思います。


■ 音がなくなる感覚

11時15分。いつものように刷毛を動かしていた時、ふいに「音」が消えました。仲間が足場を歩く音、遠くの車の走行音、全部がふっと消えて、代わりに「キーン」っていう耳鳴りだけが残った。

視界が急に狭くなる。真ん中だけぼんやり見えて、左右はグレー。ふらついた足でなんとか踏ん張ったけど、脚がガクンと抜けて、気づいたら、屋根の上に四つん這いになってた。


■ 自分の声が出ない

近づいてきた同僚の口が動いてる。何か話しかけてくれてる。でも音が聞こえない。返事をしようとしても、声が出ない。頭では「大丈夫」って言ってるのに、口が全然動かない。

それからの記憶はバラバラです。

  • 誰かが「119!119!!」って叫んだ気がする

  • 首筋に冷たいタオルを押し当てられた

  • 頬をペチペチ叩かれた

  • 胸ポケットの塩タブレットを誰かが勝手に取って口に入れてくれた

でも、体は動かないし、意識はあるのに反応できない。正直、めちゃくちゃ怖かったです。



■ ストレッチャーの揺れと点滴の冷たさ

救急車が来たのはそれから10分後らしい。でも体感では永遠だった。

「熱中症ですね、意識はあります」「酸素いこう、点滴すぐ入れる」救急隊の声は聞こえる。でも、頭の中に入ってこない。

ストレッチャーで運ばれるとき、空がぐるぐる回ってた。点滴が入った瞬間、腕の中だけがスッと冷えて「生き返る」感じがした。ただ、頭はまだぼーっとしてて、体の芯が焼けたまま冷えない。この感覚は、今でも忘れられません。


■ 退院後に感じた“あれは運が良かっただけ”

病院で点滴2本打って、3時間くらいで体温がようやく下がりました。医者に言われたのは一言。

「このまま意識失ってたら、普通に命に関わってたよ」

ゾッとしました。自分は大丈夫だと思ってた。いつも通りの水分補給をして、気をつけてた“つもり”だった。でも、あれは運が良かっただけ。


■ 職人として、父として、後悔したこと

もしあのまま倒れてたら、家に帰れなかったかもしれない。妻にも子どもにも、なにも言えないまま終わってたかもしれない。

現場で無理するのは、かっこいいことじゃない。「慣れてるから」「若いから」は、ただの幻想です。


■ だからこそ今、やってること

うちの会社ではこの件以降、現場ルールを徹底的に変えました。

  • 気温30℃以上での作業時間制限

  • 必ず30分に一度の休憩(タイマーで管理)

  • 日陰テントの常設

  • 氷嚢と経口補水液の常備

  • 仲間同士での“体調確認声かけ”の義務化

そして何よりも、「おかしいと思ったら、迷わず止まる」。それを全員で共有しています。


■ 最後に

この話をブログに書くか、正直悩みました。でも、書かなきゃと思いました。

誰か一人でも、この記事を読んで「ちょっと水飲むか」「今日は早めに切り上げよう」と思ってくれたら、それで命がひとつ救われるかもしれないから。

職人も、家族がいて、命があります。だから、少しだけでいい。理解と配慮をお願いします。


有限会社美工舎塗装工業 菅原


 
 
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